何故、次亜塩素酸か?-自然免疫と感染症対策の歴史ー
1.なぜ次亜塩素酸なのか?
人体の免疫には、大きく分けて「自然免疫」と「獲得免疫」があります。
自然免疫には、病原性微生物と最前線で戦う「発熱」「嘔吐」「下痢」「粘液」「線毛による排除」「咳」等々があります。様々な反応をすることで、病原性微生物を体外に排出します。
体内に入った病原性微生物に対しては、食細胞と呼ばれる「好中球」「単球/マクロファージ」が貪食し、好中球では殺菌して病原性微生物を排除します。
単球/マクロファージは、抗原の情報を、リンパ球の一種であるT細胞に提示し、キラーT細胞は抗原を攻撃し、ヘルパーT細胞はB細胞を活性化し抗体を生成します。
表題の「何故、次亜塩素酸か?」に関係する部分は「好中球」です。
好中球は、食細胞と呼ばれ、体内に侵入した病原性微生物(抗原)を細胞内に取り込み、細胞内で生成された、過酸化水素と次亜塩素酸で殺菌します。
殺菌された病原性微生物(抗原)の死骸と、寿命のつきた好中球は、膿となってその役目を終えます。
好中球の中では、NADPHオキシダーゼという酵素の働きで、酸素からスーパーオキシドを生成します。スーパーオキシドは不均化反応により過酸化水素を生成します。
更に、MPO(ミエロペルオキシダーゼ)という酵素の働きで、過酸化水素と塩素イオンが結合し、次亜塩素酸(HClO)を生成します。
人体が塩化ナトリウム(食塩/NaCl)を摂取し、90%が塩素イオンとして、血液、体液に存在しています。
人類の進化の歴史の中で、免疫機構も長い時間の中で進化してきたものと想像しますが、最終的に病原性微生物を殺菌する手段として、過酸化水素と次亜塩素酸が残ったと考えれば、化学工業的に合成する次亜塩素酸を病原性微生物の殺菌に利用することが理にかなっているのではないでしょうか。
(NADPH;還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)
2.消毒剤の発見/合成と感染対策への利用の歴史
年度 |
消毒剤の発見/合成 |
トピックス |
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1774 |
シェーレ(KW Scheele)塩素を発見 |
日本では、杉田玄白、前野良沢等が「解体新書」を翻訳出版。塩素ガスは第一次世界大戦で兵器として使用される。 |
1799 |
テナント(Charles Tennant)次亜塩素酸カルシウムの粉体を合成 |
![]() 水産化カルシウム(消石灰)に塩素を吸収させて生成する。クロール石灰、さらし粉ともいう。 |
1811 |
デービー(H Davy)二酸化塩素の発見 |
ナトリウム、カリウム、カルシウム。マグネシウム、ホウ素、バリウムの6元素を発見 |
1826 |
ラバラク(AG Labarraque)次亜塩素酸カルシウムを創傷治療、感染予防に使用 |
![]() 「衛生と治療用の塩化物の使用」論文でマルセイユマカデミー賞受賞 |
1827 |
アルコック(T Alcock)飲料水の消毒に次亜塩素酸カルシウム使用 |
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1837 |
シュワン(T Shwann)酵母と発酵の研究から、発酵や腐敗には微生物が関与し、加熱によって死滅されられることを証明 |
![]() |
1847 |
ゼンメルワイズ(IP Semmelweis)産褥熱の感染予防に次亜塩素酸カルシウムを使用
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![]() |
1851 |
ワット(C Watt)次亜塩素酸ナトリウムを生成
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1861 |
パスツール(L Pasteur)「自然発生節の検討」を発表し、生物の自然発生節を否定 |
![]() 腐敗と発酵は外界の微生物によることを証明 |
1865 |
リスター(J Lister)開放骨折の術語消毒にフェノール(石炭酸)を使用 |
![]() 術後の創傷の化膿は細菌による汚染であると考えて、術野や手術用具のフェノールによる消毒を行った |
1876 |
コッホ(R Coch)炭疽菌の純粋培養に成功 |
1882年結核菌発見、1883年コレラ菌発見、寒天培地による細菌培養法を確立し、細菌が動物の病原体であることを証明 |
1877 |
ベルグマン (E Bergmann) 塩化第二水銀(昇汞)で消毒 |
毒性が強いため現在では使われない |
1878 |
ステルベルグ(GM Sterberg)塩素化合物の消毒効果を発見 |
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1886 |
米国公衆衛生協会次亜塩素酸ナトリウムを殺菌剤に認定 |
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1887 |
日本初の水道が横浜で通水開始 |
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1889 |
北里柴三郎ベーリングと共同で破傷風菌の純粋培養に成功 |
1894年ペスト菌を発見 |
1897 |
英国メイドストン市で塩素剤を水道水の消毒に使用 |
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1902 |
ベルギーで塩素を連続的に水道水消毒に使用 |
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1905 |
英国リンカン水道で次亜塩素酸ナトリウムを消毒剤として連続使用 |
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1908 |
Ein- horn & Gottler 第四級アンモニウム塩を開発 |
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1908 |
Harries グルタラールアルデヒドを開発 |
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1921 |
東京市、大阪市の水道で塩素を消毒に使用 |
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1944 |
米国ナイヤガラ浄水場で二酸化塩素を臭味対策として使用 |
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1945 |
GHQ 日本の水道の塩素消毒強化を指示 |
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1950 |
電解法で生成した次亜塩素酸ナトリウムを食品添加物として指定(厚労大臣) |
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1953 |
水道給水栓で残留塩素0.1ppmと規定 |
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Goldschmidt 社 両性界面活性剤を開発 |
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1954 |
Davies GEクロルヘキシジンを開発 |
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1956 |
Shelanski HA ポピドンヨードを開発 |
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1957 |
「水道法」制定 |
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1963 |
Stonehill グルタラールアルデヒドの殺菌効果を発見 |
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1972 |
オランダ ロッテルダムで水道水からクロロホルムが検出され、この後トリハロメタン問題が顕在化 |
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1977 |
Grosse-Boewing W 過酢酸を開発 |
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1981 |
トリハロメタン目標値0.1ppm以下と規定 |
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1994 |
Gordon MD フタラールを開発 |
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2002 |
電解法で生成した次亜塩素酸水を食品添加物と指定(厚労大臣) |
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2019 |
新型コロナウイルスCOVID-19が発生 |
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2020 |
NITE(製品評価技術基盤機構)での評価試験最終報告を受けて、経産省、厚労省、消費者庁合同で「次亜塩素酸水は、一定の条件の下で新型コロナウイルスに有効」と発表した。他に、各種界面活性剤、塩化ベンザルコニウム等の殺菌効果も認められた。 |